2023.
01.
30
まずは、筆者のあとがきより引用させて頂きます。
>私の乏しい読書量で言うのも気が引ける が、これまで読んできたさまざま な『古事記』に関する著作 から、磯わたる風の香や、潮騒の響きを感じたことは、多くはない。
>『古事記』で語られている神話は、どの角度からアプローチするにしても、海からの視点抜きには見えてこない。そうした思いから、核になるポイントのいくつかに焦点を当てて本書を書いた。(引用終わり)
そして、この著者に乏しい読書量とか言われると、私の立つ瀬など何処にもありません。
どにかく、この本は情報量がすごいです。
私が知らなかった日本の神話、伝承が、これでもかこれでもかと書き連ねてあります。
読書量もさることながら、相当のフットワークと情熱をお持ちなのだと推察します。
かといって、古事記専門の方でもないんです。
思うよりずいぶん著作の傾向にばらけていて、絶対この人は本の虫だし好奇心も旺盛でだからと言って延々と机上で作業を続けるばかりの人でもない。
頭がいい人って、成績を上げようと頑張っている人、とは限らないんですよ。
というか、私の友人で学問の道へ行った人は、当たり前ですがめっちゃ勉強や研究が好きです。
特に勉強が好きな訳じゃないのに、親が自分の子供が成績上位でなければ気が済まなかったので、とにかくギリギリ旧帝大に滑り込むまでは勉強という苦行にたえ続けた私とは、全く違う人達。
羨ましいです。好奇心が旺盛であることは、その人の人生を豊かで楽しいものにするのですから。
さて、この本を読み終わって最初に思ったことは、
『……もう一度読み返そう……』
…でした。
だって、新しい情報のオンパレードなので、私レベルの脳内情報では理解と記憶が追い着いていかないのです。ついていけなくても興味があるのなら又読み返すしかありません。
私の興味とは、ズバリ《海人族》です。
もっと言えば、縄文時代から活躍していた海人族を理解する為に、海人族の神話を知りたいのです。
何故、海人族なのか。
現在にあっても、日本は7割産地の国です。
実は国土面積は案外ある(ヨーロッパと重ねてみると、南欧から北欧まで及ぶ)日本ですが、長細いので平野が少ない『でっかい島』であって、島なんですから周りは海に囲まれています。
近所に似た単語を持つ地域・民族はあっても、孤立したがラバゴス言語になってしまった程度に、日本は大規模な民族移動とは無縁な島国でした。
古代の平野は今よりずっと少なかったはずです。平野は土砂が堆積して出来る物だからです。
関東平野は、家康が灌漑を推し進める前はぐちゃぐちゃとした結構どーしよーもない土地でした。
規模は小さくなりますが、仙台平野もそうです。
豊臣秀吉が伊達政宗公に与えたのは嫌がらせでしょう。でも、政宗公は水路を巡らせて城下町から余計な水を排出し、湿地を広大な米所にして江戸に集まる米の3割は仙台藩のものにした。
そんな、山と海しかないような日本で、どんな人々が活発に生きていたのかというと、海を自由自在に渡る海人たちです。
山がちの国土は陸路を開発維持するのは非常に難しく、海路が王道だった時代が、日本は長く続きました。
なのに、記紀神話を読むと、農耕神ばっかり出てくるのです。
もう、神名に『穂』とか『火』とか『いね』『いな』とか付いてる神様多過ぎる。
何でここに『火』が出て来るかというと、古代日本の人々は、ありとあらゆる命に『火』が宿っていると考えていたからです。
イザナギが斬り捨てたカグツチ神の血や死体から数多くの神が産まれたように。
なんなら水神さえ火の神カグツチの血から生まれているほどに。
だから、『火』が付いても火の神や太陽神とは限らない。
日本書紀で別名火産霊(ほむすび)と呼ばれるように、作物の生命力や豊かな実りを表す神々が、ホント多い。
ちょっと待て。
日本は農耕がメインの国じゃないじゃろがい!!
昭和の時代さえ、港町の人達はめっちゃ魚食べてました。
当然お米は食べますが、ここの人達体の8割くらい魚で構成されてるだろ、とか余所者の私には異様に見えるほどに魚を食べる人々でした。
今は、港町はすっかり寂れて、漁業に従事する人も減り、漁獲量も減りました。
……が。ほんの4,50年前まで、日本は確かに漁業が栄えている国だったのです。
海を渡るのに飛行機が一般化するまでは、人は海路で移動していたのです。
海路しかないじゃないですか日本なんだから。
だから、私も藤巻氏のように、神話で海の神達が活躍せずに、重要とされる神々が火火火稲稲稲なのが、どうにも納得出来なくて、海人族に関する本を読んだのです。
スサノオ様が、う@こ食わせられたと激怒してぶった切ったオオゲツヒメの死体から発生したのは、様々な穀類や豆の種、そして蚕でした。
農耕民の発想で、農耕民の神話です。
ツクヨミもウケモチ神のゲロを食べさせられましたが、ウケモチはかろうじて海の幸もゲロっていたのでこちらの方がまだ幾分《磯の香り》が残る神話です。
とにかく、古事記には海の神が足りない。
特に、数多存在した《海人族の太陽神》たちは、敗北して去ったり、登場しても太陽属性を奪われていたり、そもそも古事記の神話からは弾かれている。
そういう神々と、輝く海と、海風の匂いを届けてくれる一冊です。
以前紹介した『アユノカゼの文化史 ―出雲王権と海人文化―』(室山敏明 著) と共にお勧めしたい本です。
>私の乏しい読書量で言うのも気が引ける が、これまで読んできたさまざま な『古事記』に関する著作 から、磯わたる風の香や、潮騒の響きを感じたことは、多くはない。
>『古事記』で語られている神話は、どの角度からアプローチするにしても、海からの視点抜きには見えてこない。そうした思いから、核になるポイントのいくつかに焦点を当てて本書を書いた。(引用終わり)
そして、この著者に乏しい読書量とか言われると、私の立つ瀬など何処にもありません。
どにかく、この本は情報量がすごいです。
私が知らなかった日本の神話、伝承が、これでもかこれでもかと書き連ねてあります。
読書量もさることながら、相当のフットワークと情熱をお持ちなのだと推察します。
かといって、古事記専門の方でもないんです。
思うよりずいぶん著作の傾向にばらけていて、絶対この人は本の虫だし好奇心も旺盛でだからと言って延々と机上で作業を続けるばかりの人でもない。
頭がいい人って、成績を上げようと頑張っている人、とは限らないんですよ。
というか、私の友人で学問の道へ行った人は、当たり前ですがめっちゃ勉強や研究が好きです。
特に勉強が好きな訳じゃないのに、親が自分の子供が成績上位でなければ気が済まなかったので、とにかくギリギリ旧帝大に滑り込むまでは勉強という苦行にたえ続けた私とは、全く違う人達。
羨ましいです。好奇心が旺盛であることは、その人の人生を豊かで楽しいものにするのですから。
さて、この本を読み終わって最初に思ったことは、
『……もう一度読み返そう……』
…でした。
だって、新しい情報のオンパレードなので、私レベルの脳内情報では理解と記憶が追い着いていかないのです。ついていけなくても興味があるのなら又読み返すしかありません。
私の興味とは、ズバリ《海人族》です。
もっと言えば、縄文時代から活躍していた海人族を理解する為に、海人族の神話を知りたいのです。
何故、海人族なのか。
現在にあっても、日本は7割産地の国です。
実は国土面積は案外ある(ヨーロッパと重ねてみると、南欧から北欧まで及ぶ)日本ですが、長細いので平野が少ない『でっかい島』であって、島なんですから周りは海に囲まれています。
近所に似た単語を持つ地域・民族はあっても、孤立したがラバゴス言語になってしまった程度に、日本は大規模な民族移動とは無縁な島国でした。
古代の平野は今よりずっと少なかったはずです。平野は土砂が堆積して出来る物だからです。
関東平野は、家康が灌漑を推し進める前はぐちゃぐちゃとした結構どーしよーもない土地でした。
規模は小さくなりますが、仙台平野もそうです。
豊臣秀吉が伊達政宗公に与えたのは嫌がらせでしょう。でも、政宗公は水路を巡らせて城下町から余計な水を排出し、湿地を広大な米所にして江戸に集まる米の3割は仙台藩のものにした。
そんな、山と海しかないような日本で、どんな人々が活発に生きていたのかというと、海を自由自在に渡る海人たちです。
山がちの国土は陸路を開発維持するのは非常に難しく、海路が王道だった時代が、日本は長く続きました。
なのに、記紀神話を読むと、農耕神ばっかり出てくるのです。
もう、神名に『穂』とか『火』とか『いね』『いな』とか付いてる神様多過ぎる。
何でここに『火』が出て来るかというと、古代日本の人々は、ありとあらゆる命に『火』が宿っていると考えていたからです。
イザナギが斬り捨てたカグツチ神の血や死体から数多くの神が産まれたように。
なんなら水神さえ火の神カグツチの血から生まれているほどに。
だから、『火』が付いても火の神や太陽神とは限らない。
日本書紀で別名火産霊(ほむすび)と呼ばれるように、作物の生命力や豊かな実りを表す神々が、ホント多い。
ちょっと待て。
日本は農耕がメインの国じゃないじゃろがい!!
昭和の時代さえ、港町の人達はめっちゃ魚食べてました。
当然お米は食べますが、ここの人達体の8割くらい魚で構成されてるだろ、とか余所者の私には異様に見えるほどに魚を食べる人々でした。
今は、港町はすっかり寂れて、漁業に従事する人も減り、漁獲量も減りました。
……が。ほんの4,50年前まで、日本は確かに漁業が栄えている国だったのです。
海を渡るのに飛行機が一般化するまでは、人は海路で移動していたのです。
海路しかないじゃないですか日本なんだから。
だから、私も藤巻氏のように、神話で海の神達が活躍せずに、重要とされる神々が火火火稲稲稲なのが、どうにも納得出来なくて、海人族に関する本を読んだのです。
スサノオ様が、う@こ食わせられたと激怒してぶった切ったオオゲツヒメの死体から発生したのは、様々な穀類や豆の種、そして蚕でした。
農耕民の発想で、農耕民の神話です。
ツクヨミもウケモチ神のゲロを食べさせられましたが、ウケモチはかろうじて海の幸もゲロっていたのでこちらの方がまだ幾分《磯の香り》が残る神話です。
とにかく、古事記には海の神が足りない。
特に、数多存在した《海人族の太陽神》たちは、敗北して去ったり、登場しても太陽属性を奪われていたり、そもそも古事記の神話からは弾かれている。
そういう神々と、輝く海と、海風の匂いを届けてくれる一冊です。
以前紹介した『アユノカゼの文化史 ―出雲王権と海人文化―』(室山敏明 著) と共にお勧めしたい本です。

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